照れまん君のやっぱりクラシック 「大フーガ」

 
               ≪泣く子を黙らせるこの一曲≫
 
 昔から、「泣く子と地頭には勝てぬ」と言いますが、今回、泣く子を黙らせる、
     ―――【私のお勧めのこの一曲】―――  をお送りします。
 
  話は少し遡りますが、1970年、大坂万博の年。
  この年、私は大坂の大学に通っていたので、何度か万博を見に行きました。
 お目当ては、何といってもアメリカ館の「月の石」。 アポロ12号の持ち返った「月の石」見たさに、
何度か行きました。 しかし、何度行っても、ものすごい長蛇の列。 見られるようなものでは
ありませんでした。
 
 そこで夏休み。 今回は見るぞと、決心して万博に行きましたが、以前よりもっともっと長い行列。 
列の尻尾がどこにあるかさえ解らないほど、何重もの列。 4~5時間待ちはざら。 
根性無しの私は、結局諦めざるをえませんでした。  
仕方が無いので、別の館をあちこち見学していたら、西ドイツ館に出くわしました。
 
 西ドイツ館は待ち時間がほとんどなく、「15分ほどしたら次のグループで入れます」、と言うので、
そこで待っていた。 
 そのうちに私の後ろにも次々に人が並んできて、3~4人後ろに1歳か2歳の赤ちゃんを抱いた、
若いお母さんも並んで来た。 いつの間にか、かなりの列になっていた。
とにかく、夏の炎天下。 じっとしていても汗が噴き出してくる。 恐らく35度は越えていただろう。 
 コンクリートの照り返しが強いので、体感温度は40度を超えていた。
 
 少し待っているとドアが開き、コンパニオンの女性が「どうぞお入り下さい。」と、案内してくれた。
 中は薄暗く、冷房が効いていて、ひんやりとして気持ちがいい。 
 地獄に仏とはこの事だ。 本当に生き返った感じ。
 私は真ん中あたりの一番いい席に座った。 
 私の後ろから、赤ちゃんを抱いたお母さんも入ってきた。 
 赤ちゃんが明るい炎天から急に薄暗い、ひんやりとした中には入って来たので、どこに連れて
行かれるのかと不安を感じたのだろう。 恐怖感に駆られたのかも知れない。 
  部屋の中には入ったとたんに、 「ウワ~~ン!!」と、泣き始めた。
  若いお母さんはみんなに気兼ねして、一番後ろの端の席に座り、そこで赤ちゃんをあやしていた。
やがて、全員が着席すると入り口が閉じられ、アナウンスが始まった。
 西ドイツ館は球形のオーディオルームになっていて、客席は、200~300席くらいだろうか。 
球形の壁全面にスピーカーがはめ込まれていて、アナウンサーの女性が、どんなスピーカーが
何個とか、ドームの直径が何メートルとか説明をしていた。
 その間、赤ちゃんはずっと泣きつづけていて、お母さんは何とか泣き止めさせようと、
色々試みていたが、なかなか泣き止まないでいた。 
 そこで、お母さんは、とうとう自分の手で赤ちゃんの口をふさいでしまった。 
口をふさがれた赤ちゃんはたまったもんじゃない。 両手足をバタバタさせてもがいていた。
 我々はオーディオコンサートなので、別に赤ちゃんが泣いてても構わないぐらいの気持ちで 
いたが、お母さんに取っては、皆に迷惑を掛けるので、気が気ではなかったのだろう。
 お母さんは口をふさいでいたが、あまりに、赤子が苦しむので可哀想になったのか、
「パァ」と手を離したところ、今度は、今まで以上にものすごい泣き声で、
「 ウギャ・ウギャ・ウワーーン!!」と泣き始めた。
 もう、こうなったら、どうしようもない。 泣くに任せるしかない。
  やがて、アナウンスも最後になった。
「では、ベートーヴェン作曲、大フーガ。 
演奏はベルリンフィルハーモニーオーケストラ弦楽合奏団
指揮は、ヘルベルト・フォン・カラヤン。 演奏時間は約○○分。 どうぞ、ごゆっくりお聴き下さい。」
と、終ってしまった。
  しかし、相変わらずものすごい声で、赤子は泣き続けていた。
 
        次の瞬間、
 「ガガ――ン★☆★」
と、雷が落ちたような、ものすごい音がした。
 皆一瞬首をすくめた。 私も一瞬びっくりして、体がビクッと震えた。 
とにかく、ものすごい音。 圧倒的な音量。 
こんなすごい音は今までに聞いたことが無いほど、ものすごい迫力。
それが、最初のフォルティッシモ。 よく聴くと、それがすごく綺麗な弦楽器の音。
とにかく、驚くほどの迫力で、空から音が降ってくると言う感じ。 
 音の瀑布、まさにナイアガラの滝の音楽版。 素晴しい音と音楽の洪水です。
 
 最初のフォルティシモが鳴った瞬間、なぜかピタリと赤子が泣き止んだんです
 そして、その後、この曲が終るまで、15分以上 とうとうこの子は泣きませんでした。
あまりの迫力に驚いたのと、音の美しさに、皆がこの音楽を聴きに来たのだと、理解したのでしょうか?
 やがて、音楽は終わり、アナウンスが、
「忘れ物の無きよう、足元にお気お付け下さい。 本日の御来場、誠にありがとう御座いました。」と、
放送すると、出口が開かれ、そこからパーッと光が差し込んできた。 
まるでヨーロッパの教会のステンドグラス越しに光が入ってきたように、ガラス越しの光が
何かに反射し、虹のように輝いていた。
 
 赤ちゃんと出口で一緒になると、皆が赤ちゃんの頭や、ほっぺをさすったりしながら、
「この子は音楽が解るんかねえ・・」と言ったり、
「この子は将来、クラシックの音楽家になるんじゃない?」とか、
「この子はきっとベートーヴェンが解るんよね?」とか言いながら、出口を出ると、
この赤ちゃんを取り囲む輪が出来てしまった。
  皆がこの子を撫で撫でしながら、
「この子は絶対に、音楽家にしたらいいんじゃない?」などと褒めるので、
お母さんも照れくさそうに、とてもいい笑顔をしてました。
  みんな、別れる時に手を振り「バイバーイ」と言い、お互いに「さようなら」とお辞儀しながら別れて行った。
  まったく、見ず知らずの人達でしたが、奇妙な連帯感のようなものが芽生え、
何とも不思議な幸福感を感じていました。
 
  もし、月の石を見に行っていたら、こんな気持ちは味わえなかっただろうな、と嬉しくなり、
何とも言えぬ感動と充実感に浸っていた。
 赤子とベートーヴェンの大フーガ。 
不思議な取り合わせですが、とにかく赤子を泣き止ませたのだから、ベートーヴェンはすごい。
ただ者ではありません。 やっぱり偉大な作曲家だなと、改めて感激しました。
  あれから、37~38年経ってしまったが、あの赤ちゃんはどうなったろうかなと、
時々思い出したりしている。
   ♪     ♪     ♪     ♪     ♪     ♪     ♪     ♪
 
 さてこのベートーヴェンの大フーガですが、これはあの第九゜合唱付き゜のあと、
最晩年に作曲されたもの。 
 元々弦楽四重奏曲第13番・作品130、の第6楽章として作曲されました。 
ところがこの第6楽章があまりに難解で長すぎると言う悪評で、もう一度この楽章だけを
書き変えることにしました。 
  弦楽四重奏曲15番・14番16番を書き終えた後、新たに新しい曲を第6楽章とし書き直しました。 
 その為、この13番の書き直し第6楽章が、彼の遺作になってしまいました。 
 そこで元の曲は、大フーガ 作品133 、として独立してしまったのです。
 
  現在は、元々の形の弦楽四重奏曲13番として演奏されることが多いのですが、
時々オーケストラの弦楽だけで「大フーガ」として、演奏されることもあります。
しかし、これらベートーヴェンの最晩年の弦楽四重奏曲は滅多にプログラムに上がる
 ことはありません。時々、全曲演奏会のような時、演奏されています。 
中期のものがあまりにも充実し、人気があるので、仕方ないのかも知れません。 
 とても素晴しい曲ばかりなのに、残念です。
 
 フーガの第一人者といえばバッハです。
 しかし、ここでベートーヴェンが、
「フーガの第一人者はバッハじゃない。 この俺だ!」
と言う、強い自己主張とものすごい精神力を発揮しています。 前衛です。  霊感の塊です。
当時の人が理解出来ないはずです。
 
  死の直前。 稲光がし、雷鳴が轟きます。 べートーヴェンはカッと目を開き、片手を挙げ、
「諸君、喝采を、喜劇は終った。」と言い、息果てたと伝えられています。 
まさに、その最後にぴったりの曲が、この『大フーガ』です。
 
 泣く子を黙らせるには、弦楽四重奏版より弦楽合奏版のほうが、よりお勧めです。
もし、この「大フーガOp・133」を聞かせても赤子が泣き止まなかったら、
それはきっとオムツが濡れているか、お腹がすいているので、善処してみて下さい。
 それでも泣き止まなかったら、その子は吉本に入れるしかありません。
        ではでは・・・・・・。
 
                 夏の午後赤子泣き止む大フーガ        照れまん
 
        (離心円へのメールより  近頃では、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏も、よく演奏されますよ。)
 
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照れまん君のやっぱりクラシック 「大フーガ」 への5件のフィードバック

  1. のら より:

    しばらくです。
    70年万博、なつかしいです。
    実はその開催期間にそこで仕事をしていました。前後を含めて約10ヶ月間でした。
    胸に付けた社員証を見せればどこのパビリオンも関係者通用口から自由に入れたんです。
    でも期間中は想像を絶する忙しさで、結局どこも見られませんでした。
    それどころか残業、徹夜はしょっちゅうで会期が終わって「打ち上げ」の旅行先の金沢で疲労のため入院するはめに・・・。
    大量の入場者を捌ききれず、入場待ちの人が会場前にあふれて地下鉄駅のホームまで影響して電車がストップというような日もありました。
    そんなことですから毎日会場にいながらなにも見ていない大阪の田舎者になってしまいました。
    せめて月の石とかソ連館などは見ておくべきだったなぁと思います。
    「大フーガ」も毎日上演されていたんでしょうね。
    どんな曲か聴いてみたい衝動に駆られます。ボリュームいっぱいにして・・・。
    ピタっと泣き止んだ赤ちゃんを中心に出来た妙な連帯感の雰囲気がよくわかります。
    その場に居合わせて、その幸福感を味わってみたかったですよ。
    あれから37年、いまごろどこでどうしているんでしょうね、その赤ちゃんは。
     

  2. 照れまん より:

    照れまん

    のらさんへ
     
    二人静 の写真、見ました。
    俳句では沢山、二人静は詠まれているのに、花を見たことがないので、イメージが湧きませんでした。
     
      人見知り二人静に誰想ふ      こうさか
     
    作者はとても人見知りなのでしょう。二人静さんあなた方は誰を待っているのですか?私もその昔、想う人を待っていたことがあるのですよ。・・・・・・と言うような句でしょうか。いい句ですね。
    花は静御前とその霊に憑かれた菜摘女(なつみめ)とが、2人で舞う姿がたとえられているとか、・・・・。本で読んだのでは解らなかったのが、写真を見てよく解りました。
     
    もう一つ、一人静と言うのもありますよね。
     
       きみが名か一人静といひにけり    室生犀星
     
    あなたの名前が一人静と、言うのですね。と言うような句ですが、義経が静に初めて会った時のような句ですよね。
    「そなたの名はなんと申す」 「はい、『しづか』と申します」 「そなたが、工藤静香か?」 「いいえ、わたくしは苦労は致しておりません。苦労知らずゆえ、九郎様の静・・・・・九郎静で御座ります。」 「なんと、九郎静とな。ういいやつじゃ」
    コラ――ッ!誰だ、室生犀星の句を台無しにするのは。
    ごめんなさーい。(ぺこり)
    九郎と静が生涯離れ離れになるのは可哀想なので、私が二人を添い遂げさせてあげます。
     
       羽子板の九郎に静頬を寄せ       照れまん
     
    ではでは、また・・・・。

  3. Pu'uwai より:

    こんにちは はじめまして。
     
    昨夜、戴いたお豆でまめごはんにしました。
    豆ご飯 食べてともだち思い出し
    とどけてやりたや 莢の舟
     
    よろしかったら莢の舟は不沈空母ですから、乗船してください。

  4. yasuko より:

    Pu\’uwaiさん
     
    照れさんまんから、以下のような依頼がありましたので、お返事送りました。 早く照れまんさんに、Pu\’uwaiさんのきれいな写真を見せてあげたいと思うのですが・・・
    とにかくサイン・インすることだけでも、覚えてくださいね、照れまんさん! 
     
    プウバイさんからコメントが来ているのを読みました。
    お忙しい、離心円様にまことに申し訳ないのですが、返事を書いたら届けて貰えますかね?
    一度アタックしたのに撥ね付けられてしまって、そのままになってしまっていますが、もう一度アタックせんといかんだろうなと思います。 焼付けの方法を覚えないと、紙に書いていちいち入力していると、どこかが違っているらしい。 たぶん点の位置が違うんだろうなとは思うのですが・・・・・。         アタック・・・・チャンス??
                  照れまん

  5. Pu'uwai より:

    こんにちは
    私から友人リストへのご招待を送信しました。
    このコメントのアドレスをクリックすれば私のとこに入れます。
    もしその前に青いサインイン画面が出たら、サインインをクリックすれば私のところに着きます。
    お待ちしています。
     

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